創立26周年を迎えて

 私は、戦時中の遺物がまだそこかしこにある時代、防空壕を遊び場にしていた世代です。バブル崩壊よりオイルショックの方が印象深い齢には、それなりの無常観も備わっています。昨年、節目の25周年を経た時には、そろそろ何か起きても・・・、という漠然とした不安感はありました。しかし3.11の規模は全く想像できていませんでした。更に耐え難い原発の災禍です。しばらくは、技術屋として何もできない無力感に苛まれました。

 地震と津波の被害は痛ましく甚大ではありましたが、復興に向け計量もできましょう。しかし原発事故の被害は現在でもまだ全貌が計り知れない状況にあります。日本の経済に与えた損失はまだまだ闇の中ですが、現時点でも正視に耐えない規模である事に間違いないと感じています。まだまだ簡単に手当のできない損失が増え続けると覚悟するしかありません。

 電力事情の悪化を受けて、自然エネルギーの利用や蓄電技術に対する期待感が急速に高まったのは当然の成り行きですが、平時ではこうはいかなかったでしょう。温暖化対策ぐらいの動機では市場経済の原則に太刀打ちできませんでした。そう思うと今、この一連の厄災に見まわれた事は、むしろ人類の延命には貢献したと言えますし、理系人には大きな期待が向けられる時代が到来したとも言えるでしょう。

 ここで理系人とは申しましたが、科学、工学に携わる者が文化的視野を欠いてはならないと強く思います。経済の奴隷となれば、また福島の原発事故の様な結果に荷担してしまいます。これまでの長きに渡り、理系的素養を持たない者が政治経済を主導し、専門域に籠る理系人がその奴隷になる構図は、彼等の想像を絶する惨禍を生んできました。その愚を繰り返さない為に、社会の有り様を把握し、自分が何をすべきかを判断することが理系人にこそ求められています。必要なのはリアリティーです。そのためには、実体験を重ねるしかありません。社会にその機会が減った事が、結果的にこの社会の生命力を奪ってきました。

 私共が取組む小型飛行機の開発は、救難、被災地支援などもテーマの一部ですが、大規模災害は手に負えそうもありません。また、当面のエネルギー問題に直接寄与するものでもありません。社会に貢献できるものを作らねば、という焦燥感はありますが、焦ったところで実力以上の事はできません。現在試作中のグライダーキットは、地味ではありますが製作と飛行を通じて工学のリアリティーを感じられるものを目指しています。作って飛ぶ経験は普段なかなか得られないだけに、存分にリアリティーを得られる機会になると自信を持っております。オリンポスが最も効果的に社会貢献できるプロジェクトと信じ、27年目を頑張って参ります。


有限会社 オリンポス
代表取締役 四戸 哲